研究
研究の概要
高等動物教育研究センター(附属牧場)は、獣医・畜産学および応用動物科学の基盤に関わる「産業動物医科学」の教育・研究の場として1949年に設置されました。
以来、産業動物の効率的生産や高度利用を目指した教育・研究、産業動物の健康(人獣共通感染症などの観点からのヒトの健康)の増進と維持を目指した教育・研究などを行ってきました。資源動物(ヤギ、ウマ、ウシ)の系統育成を行いながら、実験動物として系統を確立したシバヤギやアニマルセラピーに適したクリオージョ(アルゼンチン原産の小型ウマ)などを各所に供給しています。
さらに、実際に乳牛を飼育して、牛乳生産を継続するなど、獣医学・応用動物科学分野の動物フィールド科学の実習と教育の場としての役割も果たしています。加えて、動物生命フィールド科学を具体的な形で実証できる最先端の国際研究拠点となることを目標にして、これらの資源動物を用いた基盤研究と応用研究を下記のように進めています。
生殖の生命科学と遺伝子資源
優良な遺伝形質をもつメス家畜の卵巣が食肉処理場では無為に廃棄され続けています。 これに含まれる卵母細胞(潜在的卵巣卵)を救命し、優良遺伝子資源を有効に利用するため、卵胞死滅の制御機構を細胞死受容体の役割を中心に解明し、これを人為的に制御する技術を創出しようとしています。
この研究で得られた知見は、死滅すべき運命にある99%以上の卵母細胞と健常に発育・成熟して排卵にいたる卵母細胞を判定する技術の確立につながり、様々な生殖工学で利用される卵母細胞の質を保証する技術の開発に貢献するものです(学術創成研究)。
主要な産業動物である反芻動物の性成熟機構、特に卵胞発育と排卵について超音波画像診断法を駆使して非侵襲的に詳細に調べ、簡便で的確な人為的制御方法の開発を進めています。
これに人工授精の改善を加えて、産業動物における受胎率の向上に貢献します。
哺乳類では、乳幼児期の栄養状況の不良は臓器機能に悪影響をおよぼします。例えば、インスリンの分泌能と感受性や脂肪細胞の数とサイズなどが変化し、中枢神経系の食欲制御にも影響します。乳幼児期に適切なアミノ酸を給与することで、産業動物の生産効率の向上が計れることが判明してきています。
加えて、泌乳期のウシに適切なアミノ酸を給与することで日和見感染に起因する乳房炎を予防できる可能性も高いことが分かってきていますので、産業動物に抗生物質などを多く投与することなく健康で効率的な飼育が可能となるアミノ酸を中心とした栄養素補給法の開発研究を進めています。
環境との調和を計りながら農業・牧畜という産業活動を永続する方策の研究・開発、この「環境との調和」を科学として一層深めるために哺乳類や鳥類のみならず爬虫類、両生類、魚類などの野生動物までをも比較生物学的視点から俯瞰した動物生命フィールド科学のさまざまな教育・研究をすすめています。
環境汚染と食料の安全性
現代の様々な社会問題に対応するという大学の役割に対応するために、食資源動物に由来する様々な食品(精肉、ハム・ソーセージ、チーズ・バター、卵など)の安全性を評価する科学の研究・開発をすすめています。
細胞外マトリックスの生理科学
哺乳動物の生体内では、何十兆もの細胞が、整然と立体構築を保って、互いに親密に会話を交わしあっています。私たちは、聞き耳を立て、細胞と細胞の交わす密やかなクロストークを聞き取ることで、生命の空間情報を読みとろうとしています。このために、レーザー顕微鏡、核磁気共鳴顕微鏡、電子顕微鏡などの先端機器を駆使して、組織や細胞の形態を保ちながら、生理機能を分子生物学的、細胞化学的に観測・解析しています。
アニマル・セラピー用の動物や盲導犬、介護犬などとして社会に貢献する動物達のターミナルケアーを視野にいれた21世紀の産業動物の総合的ケアー・システムの研究・開発などを課題とする「動物生命フィールド科学」の創設を目指す研究・教育を積極的に進めています。
【関連学会へのリンク】